「ねえ、ここ、どこ? 氷河は?」
「氷河の姿が見えないね」
「うん、見えないね」
「ねえねえ、おじさんたちー! 氷河はどこにいるの〜?」

「おっ……おじさん !? 」
まだ20歳のみそらで、おじさん呼ばわりされてしまったミロ医学者は、結構かなり大ショック。
けれど、ミロ医学者が受けたショックは、小人たちには何の関係もないことでした。

「ねえ、ざぶざぶ波の音みたいなのが聞こえるけど……」
「うん。波の音がする」
「どーして? 僕たちがいたのはお風呂屋さんだよ。波のあるプールじゃないよ?」
「ねえねえ、おじさんたちー! ここはどこなのー !? 」

「うっ……」
自称クールな物理学者のカミュも、小人たちのおじさん呼ばわりには、ショックを隠しきれません。
彼は、内心深く傷付きながら、小人たちに現況を報告しました。
「どこと言われて……長崎に向かう船の上だが」

「なっ……長崎ーっっ !? 」
これには、さすがの小人たちも、びっくり仰天です。

「な……長崎と言ったら……」

「長崎ちゃんぽん」
「皿うどん」
「カラスミ」
「長崎かすていらだーっっ !!!! 」

「わーい !! 」× 15
この瞬間、小人たちは銭形氷河のことを忘れました。

9号が、ごほんと咳払いをして、二人のおじさんを見上げます。
「うん。じゃあ、特別に、無駄使いは許してあげるよ。代わりに、僕たちに、かすていらをちょうだい」
「うんうん、許してあげるよ〜」× 14

本当は、9号以外の小人たちには、カミュ物理学者とミロ医学者の無駄使いなんてどうでもいいことでした。
無駄使いはどうでもいいことだったのですが、かすていらは重要問題。

「かすていら! かすていら! かすていら! かすていら! × ∞」×15
小人たちは、一斉に、かすていらシュプレヒコールを開始しました。

「…………」
延々続く小人たちのかすていらコールをあびせかけられて、カミュ物理学者は、嘆息と共に、長崎に着いてからの出費を覚悟することになったのです。
「わかった、長崎に着いたらな」

「やったーっっ !! 」× 15
カミュ物理学者の言葉に、小人たちは喜色満面、大喜びです。

「おじさん、ありがとーっっ!」
「僕、一度食べてみたかったんだ、長崎かすていら!」
「僕も僕も〜!」
「楽しみ〜」
「早く、長崎に着かないかな〜」
「うんうん。早く長崎に着かな……ねえ、氷河は?」

小人たちは、銭形氷河を忘れるのも突然なら、思い出すのも突然です。
けれど、今回ばかりは、思い出したタイミングが悪すぎました。
小人たちの心は、今はすっかり長崎かすていらの上に飛んでいってしまっていたのです。

「心配することないよ。僕たちと氷河は運命の赤い糸で結ばれているんだ。長崎でかすていらを食べながら待ってれば、きっと迎えに来てくれるよ」
「そうだよね。前に4号が風に飛ばされた時も、氷河はちゃんと見つけてくれたし」
「僕が川に流された時も、ちゃんと見つけてくれたよ」

「大丈夫だよね!」
「当たり前さぁ。僕たちの氷河だもん、僕たちがどこにいたって、きっと見つけてくれるよ」
「氷河の愛の力を疑うのは罪だよ」
「うんうん、罪だよね〜!」× 15

「…………」
ミロ医学者は、訳がわからず、ただ呆然です。

「…………」
カミュ物理学者は、訳がわからないながらも、長崎での出費は全てミロ医学者に負担させることを決意していました。







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