海からの贈りもの




ざぷ〜〜ん、ざぷ〜〜んと、波の音がしていました。
まるでこの世の中には波の音しかないのではないかと思えてしまうくらい、ただ波の音だけがしていました。

方向音痴のカメさんの上で、口を開く者はただの一人もいません。
それほど、小人たちと銭形氷河と医学者ミロと物理学者カミュとその他阿蘭陀行きの乗員乗客たちの茫然自失度は高かった――ということですね。

でも、実は、この状況は、彼等が海底神殿に行く前と、全く何も変わっていませんでした。
ただ、イカのイカダが、受けた恩を忘れない、律儀で方向音痴のカメさんに変わっただけ。
けれど、律儀でたのもしいカメさんが、自分たちを自分たちの望む場所に連れていってくれるものと期待し信じていただけに、漂流者たちの失望は大きかったのです。
人の心というものは、時に不思議な動きを見せるものですね。


すっかり気落ちして、ほにゃららら〜状態の一行の中で、いちはやく自分を取り戻したのは、やはりこの人――もとい、この小人、でした。
「カメさんは、広い海の同じところをぐるぐる回っているだけだ。このままじゃあ、僕たちは海の迷子になってしまう。僕たちが進むべき方向を把握しない限り、この状況は変わらない。いつまでも、同じ軌道を描く物体の動く向きを変えるためには、軌道を変化させる新しい要素が必要だよ」
それは、もちろん、9号です。

「ほう。あの子は、可愛らしいだけでなく頭も切れるんだな。貴様もタコと戯れていないで、学者らしく、何かいい知恵を出してみたらどうだ」
「うるさい! 私は今、取り込み中だ! タコの足は8本あるのに対し、私の足は2本。この際手も加えるとして計4本、対抗するにはまだ4本足りない……うわぁぁ〜、やめないか、このタコ! そんなところに絡んでくるなーっっ!」

この際、タコに好かれたミロ医学者とクラゲに気に入られたカミュ物理学者は、何の役にも経ちません。
まして、小人たちの指示に従うしか能のない銭形氷河は論外でした。







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