「なにより腹が立つのは、あの男が、姫の美しさも知らないで、あんな暴言を吐いたことだ!」

キャメロットの王宮の円卓の間では、王以外の円卓の騎士たちが勢揃いしていました。
なにしろ、王の妹姫の夫に誰がなるのかは、彼等にとっては大問題だったのです。
円卓の騎士たちは、誰もが、その幸運を手に入れることを望んでいましたから。


「まあ、落ち着け、アイオリア」
円卓の騎士の中で最も一本気な騎士の激昂を、彼の仲間たちがなだめます。

少々野性的な風貌の王から、その妹姫の可憐さを察するのは、誰にでもできることではありません。
ログレスの王妹は美しい姫ではないというキグナスの決めつけは、確かに騎士の礼儀には適っていませんが、ある意味常識的な判断だったかもしれません。

「姫のあの可憐なご様子を知ったら、あの男はますます姫を欲しがるだけだろうが」
「その通りだ。知らせないでおくに越したことはない」
「腹を立てているのは、おまえだけじゃないんだからな」

少なくとも、自分より弱い男に、アンドロメダ姫と未来のログレスの王座を渡すことはできない――円卓の騎士たちはみな、胸中でそう誓っておりました。



ですから、翌日からキグナスに降りかかることになった災難は、仕方のないことだったかもしれません。
王と同格の待遇でキャメロットの王宮に滞在することになった彼は、円卓の騎士たちからの決闘の申し込みを次から次へと受けることになったのです。


「おい、そこの金髪の青二才。私は円卓の騎士の一人で、ミロという。貴様に決闘を申し込む」

王宮の庭を横切ろうとしていたキグナスは、妙に爪の手入れの行き届いた騎士にそう声をかけられて、うんざりした顔になりました。
「またか。朝から4人目だぞ。デスマスク、アフロディーテ、アイオリア、そして貴様」

キグナスのぼやきを聞いて、4人目の挑戦者は眉をひそめました。
3人もの円卓の騎士と闘って無傷でいられるとは、この異邦の騎士の腕前は相当のものです。

「奴等に勝ったのか」
「最初の二人は不意打ちだったんで、こっちも卑怯な手を使わせてもらったがな。大した騎士様だ。アイオリアとかいう男は逆上していて話にならなかった」

「まあ、あの二人は素行を改めないと、近いうちに、円卓の騎士の座を失うことになるだろう。俺は奴等とは違って、ちゃんと騎士道にのっとって決闘を申し込むぞ。姫をよそ者に渡すわけにはいかない」
「ふん」
今日4人目の挑戦者を鼻で笑って、キグナスは剣を取りました。
いつのまにか、二人の周りには見物人が数名。

「まあ、どちらも頑張ってくれ。ミロ、おまえが負けたら、次は私がこいつの相手をしてやる」
同輩の激励に、剣を手にしたミロがムッとなります。

「カミュが負けたら、このムウが」
そのカミュも、ムウの言葉にムッとなり、

「その次は俺だ!」
雄牛のような騎士の言葉に、ムウは涼しい顔。

次から次へと休息を与えずに決闘を申し込むとは、卑怯と言えば卑怯なやり方ですが、これは、名乗りをあげての正式な決闘の申し込み。騎士の道には適っていることなのでした。


そういうわけで、一応騎士道にのっとった闘いが、キャメロットの王宮の庭で始まったのですが、その闘いはふいに響いてきた一つの声のせいで中断されてしまいました。

「やめてください!」

「姫君!」

庭に面した高い塔の窓に、小さな人影を見付けると、その場にいた円卓の騎士たちは全員その場に跪きました。

「その方は、騎士と騎士の誓約で決められた我が夫だそうです。やめてください」
「…………」

それがログレスの王の妹姫らしいことを悟ると、キグナスは高窓に映る人影を仰ぎ見ました。が、塔の高いところにある窓の陰にいる姫の姿形を、キグナスははっきりと確かめることはできませんでした。 
彼は、アンドロメダ姫自身が彼女の夫にもたらす栄光を求めているだけで、姫自身には興味もありませんでしたので、それを残念に思うこともありませんでしたが。

「はい」

ミロが自分の命令に従って剣を収めると、ログレス王の妹姫は、自分の“夫”に挨拶もなく、すぐに塔の奥へと引っ込んでしまったのでした。





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