それからさほどの間を置かず、グラード財団はインターネット業界に本格参入した。
インターネット・バンク、各種データのダウンロードサービス、通信ソフトウェアの通信販売等、もっともらしい部門や会社も事業を展開し始めたが、それらの事業が沙織の真の狙いをカモフラージュするためのものだということは、星矢たちにはわかっていた。

沙織の真の目的。
それは、グラード財団が母体となった、巨大な無料プロバイダ、『セイント・どっと・コム株式会社』の設立だったのだ。

グラード財団総帥・城戸沙織の号令一下、速やかに活動を開始した『セイント・どっと・コム』。
それは、極北の地シベリアから南極基地まで、極東の国日本から、西域の砂漠地帯まで、全世界を網羅する巨大ネットワークだった。
なにしろグラード財団総帥が儲けを度外視し、自らの趣味のために、金に糸目をつけずに設備投資しただけあって、テレホタイムでも接続は超軽快。
『セイント・どっと・コム』は、ネット界に登場するなり、ありとあらゆるプロバイダ比較アンケートで1位の座を獲得することになったのである。

その入会資格は、ただ一つ。
青銅・白銀・黄金、いずれでもいい、ともかく、聖闘士のファンであること。

聖闘士を主体にしたサイトを立ち上げる会員には、グラード財団からのありとあらゆる援助とサービスの提供が約束され、場合によっては、HP作成のプロがサポーターとしてサイト管理者の自宅まで派遣された。

それがやおいサイトであったりした日には、パソコン・プリンタ・スキャナー・お絵描きソフトが無償で贈与され、更に、裏ページを作るサイトには(厳しい内容審査はあるものの)月50万円の報奨金が与えられることになったのである。

状況がそうなれば、既存の星矢関連サイトはこぞってプロバイダを『セイント・どっと・コム』に乗り換え、それまで、技術・時間・金銭面の事情でサイト開設をためらっていたファンたちもまた、続々とサイトを立ち上げ始めた。

それらのサイトの更新情報は毎日沙織のもとに送信され、その内容が沙織のお気に召した場合には、アテナ沙織じきじきのカキコが、該当サイトの掲示板に神々しく出現することになったのである。

しかも、年に一度の財団主催のサイトコンテストで優勝したサイトのオフ会には、ネタになっている聖闘士がカップルで貸し出されるという特典付きとなれば、ファンたちのサイト活動にも熱がこもるのは当然で必然で必至のことだった。





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