紫龍が言葉を失い、星矢が思いがけない瞬の応酬に目を丸くしたところに、タイミングがいいのか悪いのか、噂の当人がやってくる。

瞬は、それまで紫龍に向けていた挑戦的な眼差しを優柔不断男の上に移した。

氷河が、星矢の目に優柔不断に見えないのは、実は、彼が瞬のその挑むような視線をいつも真っ向から受け止め、決して視線を逸らさないからだった。
氷河が走り出すのをためらっているのは、もしかしたら瞬のためなのではないかとさえ、星矢は思ってしまうのだ。

逸らされない氷河の眼差しから、先に逃げを打ったのは瞬の方だった。
ついと横を向いたその横顔が、悔しそうでもあり悲しそうでもある。

氷河もまた、そうなって初めて、肩から力を抜く。

紫龍と星矢は、このスリリングなやりとりに、甚だしい緊張を強いられていた。
彼等の知っている愛情というものは、もっと穏やかで優しい感触を持つものだったのだ。



「瞬は――何かあったのか」
氷河が、瞬には聞こえないように小声で星矢に尋ねてくる。

「おまえがいつまで経っても煮え切らないイモみたいだから不機嫌なんだよ!」
「そうか……」

瞬よりははるかに不機嫌そうな星矢の答えに、氷河が僅かに頷く。

「…………」
星矢は――考えるより先に、ためらうことなく走り出す星矢は――氷河の行動も瞬のやり方も、今ひとつ理解しきれなかったのである。

二人は、二人ともが知っている。
自分が誰を愛しているのかも、誰から愛されているのかも。

だというのに。



(紫龍〜、この二人どーにかしてくれーっっ !! )

星矢は紫龍に救援信号を送ってみたのだが、通報を受けた救援者は、あまりに厳しい気象状況に救援のヘリコプターを出すことすら不可能な状態だった。





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