氷河と瞬の醸し出す緊張感に周囲の者は疲弊する一方だというのに、当の二人の小宇宙(?)は日を追うごとに強大さを増していく。
それは、黄金聖闘士や神を名乗る輩共と闘った時の小宇宙など、二人にとっては机の上の鉛筆を転がす程度の力でしかなかったのではないかと思えるほどに緊迫した空気だった。

(うーん、愛の小宇宙ってのは、まさに無限だぜ!)
――などということを、星矢がヤケになって考え始めるようになっていたある日。
全く種類の異なる緊張を氷河に抱かせる事件が起こった。




「氷河、いるのか !?  救急車を呼べ !! 」

その日、瞬は、星矢や紫龍と星の子学園に出掛けていた。
『おまえと瞬が一緒にいると、ガキ共に悪影響を及ぼすから、おまえは留守番してろ!』
と星矢に言われ、氷河は一人城戸邸に残ることになってしまっていたのだが。

「救急車? いったいどうし……瞬!」

紫龍の大声に、いったい何が起こったのかと部屋を出てきた氷河が、2階の回廊から見おろしたエントランスホールで見たもの。
それは、気を失って紫龍の腕に抱きかかえられている瞬の姿だった。
階段を回るのももどかしく、氷河は2階から階下に飛び降りた。

「どうしたんだ、これは! おまえらがついていながら!」
氷河の責めるように鋭い口調に、星矢がくしゃりと顔を歪める。
そんなことを言われても、星矢は氷河と違っていつも瞬だけを見ているわけではないのである。
が、ここで、口応えという名の正論を吐いてみても、氷河の怒りが鎮まるわけもない。
この場で氷河に逆らうのは全くの無益だという判断くらいは、星矢にもできた。
なので、言い訳ではなく状況説明を、星矢はしたのである。
「そこの大通りに出たとこで、ダンプに轢かれそうになったんだ」

が、その状況説明も、実はなかなか口にしにくいものだったのである。
「車に轢かれそうになった……を助けようとして」

「何? 何を助けようとしただと?」
問われてしまっては、答えないわけにはいかない。
そんなことを尋ねてくる氷河を、星矢は一瞬海底2万マイルよりも深く恨んでしまったのである。

「かめ」
「なに?」
「亀だよっ !!  こーんなちっこいミドリガメ!」
やけになって叫んだ星矢が指で示した長さは、約3センチ。

「か…亀……」

さすがの氷河も、これには、一言呟くなり盛大に絶句した。





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