そして、翌日。

しゅんは、昨日のことなど忘れたかのように、再び、
「ひょーがー、ケーキ、ケーキー !! 」
と、喚き始めた。

氷河は、うんざり、げんなり、げっそりだった。

「ケーキ食べないと、僕、死んじゃうよぉー!」

こんな無益なことを、しゅんが瞬になるまで繰り返さなければならないのかと思うと、絶望的な気分になってくる。

で、氷河は、つい言ってしまったのである。
「――生意気に、俺を脅迫する気か? しかも、自分の思い通りにならないなら死んでやるなんて脅迫は、いちばん卑怯なやり方だぞ。ふん、ケーキごときで死ねるなら死んでみろ。大笑いしてやる」
――と。


突き放すように冷たい氷河のその物言いに、しゅんは、ひどく怖じけたようだった。
小さな声で、恐る恐る、
「……ひょーが。ひょーがは僕を好き?」
と氷河に尋ねてくる。

氷河は氷河で既に気力が失せていた。
同時に、相手を無分別な子供だからと大目に見る寛容さも、既に擦り切れてしまっていた。

「嫌いだ。あっちへ行ってろ!」

「…………」


氷河のその言葉を聞いたしゅんが――その言葉を聞いたしゅんの瞳が、まるで80年もの歳月を生きてきた老人のそれのように悲しげな光を宿したことに、氷河はその時気付きもしなかった。





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