「おい、氷河。いいのか、あんなことを言って」

氷河のあまりに下手くそな子供あしらいを見兼ねた紫龍と星矢が、氷河に忠告してきたのは、その直後。


「何がだ」
「何が…って、あれは瞬なんだぞ。少し考えたらわかりそうなもんじゃないか。あんなに素っ気なく『嫌いだ』なんて言って、あの子が元に戻った時、瞬がおまえをどう思うか」

瞬がどう思うか。
そんなことは、紫龍などより氷河の方が100万倍もよく知っていた。

「瞬はそんなことを根に持つ奴じゃないし、あんなガキは、俺の好きになった瞬でもない。俺の瞬は、もっと分別があって、いつも自分のことより他人のことを考えてて、あんなとてつもない我儘を言って、俺を苛立たせたことなんか一度もなかった。だいいち、好きでもないものを好きといえるか。それこそ、瞬に俺の言葉を信じてもらえなくなるだろーが。俺は、瞬に、方便で『好き』と言うような男だと思われるのはごめんだ」

「…………」

それは、他人に愛想を振り撒けない氷河らしい考え方ではあった。
ある意味では、確かに一理ある。
だが。

「でもさー、子供って、愛情食って生きてるようなもんじゃん? 星の子学園のクソ生意気なガキ共もさー、育ち盛りだから、あれが食いたいこれが食いたいって、いっつも美穂ちゃんにねだるんだよ。でも、美穂ちゃんに頭撫でられて、我慢してくれって言われると、健気に我慢するんだぜ? その大事な主食がさ、いつも側にあることを確かめられないと、不安になるんじゃないか? 子供って」

「あのガキが食ってるのはケーキばかりだ。愛情なんて、意味も知っちゃいない」

星矢の貴重な目撃談を、氷河はあっさり一蹴した。


そこにまた、実にタイミングよく、しゅんが駆けてきて、
「ひょーがー、遊んでー」
と、氷河にまとわりつき始める。

「ほら、嫌いと言われたことなんざ、すぐ忘れてる。子供なんて、そんなもんだ」

紫龍と星矢の親切な忠告と助言は、当の本人であるしゅんの言動によって、あっさりと否定されてしまったのだった。




それにしても――である。

氷河は不思議だった。
何故、しゅんが、自分に懐いてくるのかが。
子供の扱いなら、紫龍の方がずっと上手いし、星矢の方が場数を踏んでいる。
いくら分別のない子供といっても、それくらいは敏感に感じとれるものなのではないだろうか。

「そりゃあ、優しいどっかのおじさんより、いつも不機嫌な父親の方が好きなもんだろ、子供ってのは」

「…………」

星矢の言葉に、氷河は思いきり顔をしかめた。





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