一輝は、氷河の手にしている悪趣味な写真を睨みつけて、憎々しげに、だが、呻くように言った。
「貴様が手引きしたんじゃないだろうな。元の組織に戻るために」

瞬のデスクの肘掛け椅子に深く身を静め、頭痛を耐えるように額を指で抑えた一輝の口調には、すべての責任を氷河に帰してしまいたいという思いが滲んでいた。

「馬鹿な。俺は――」

氷河の反駁をさえ、彼は聞く気にもなれないらしい。
左腕を投げやりに上げて、一輝は氷河の言葉を遮った。
「ああ、貴様がそんなことをするはずがなかったな。ろくな仕事もせず、瞬にまとわりついて、三食昼寝付きの優雅な生活なんだ」

彼の罵りには、侮蔑の他に憎しみも混じっている。
「それだけならまだしも、瞬を…!」

「…………」

一輝が自分に向ける憎悪は、氷河にも理解できた。
彼と同じ立場に立たされたならば、自分も同じ憎しみに支配されるだろうとも思う。
瞬を手に入れるという幸運に恵まれる人間は、善良で誠実な人間でなければならないのだ。
そうでないなら、自分が汚れることも厭わずに、瞬の清廉を守り抜いてきた甲斐がない。

一輝にとって、自分は、最も瞬の側に置きたくないタイプの男なのだろう――と、それは氷河にもわかっていた。

「貴様に全く疑惑がないというわけではないから、グラードからの情報はやれん。もっとも、与えられる情報もないというのが本当のところだがな。とにかく、三食昼寝と瞬付きの生活を続けたいのなら、瞬を取り戻せ。極秘裡にだ!」

「…………」

氷河の雇用主は瞬である。
瞬以外の者の命令に従う義務も責任も、氷河にはない。
だが、その瞬が、今ここにいないのである。

「与えられる情報は、その写真くらいだ」

吐き捨てるような一輝の物言いに、氷河は奥歯をきつく噛みしめた。





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