瞬がさらわれてから、写真が届くまでわずか6時間。
その間に、拉致犯は、瞬の上腕に埋め込まれていた発信機を探し、除去し、写真を撮って、ラボまで送りつけてきた。

犯人は、発信機の件を最初から知っていたのか、あるいは察していたのか。
知っていたのだとすれば、ラボの内部・財団の者から情報が洩れたのであろうし、察していたのだとすれば、諜報機関かそれに属する機関に関わったことがある人物なのだろう。

小型の金属探知機があれば、体内に埋め込まれている発信機を捜すのは容易である。
取り除くのはカッターナイフでもできる。
だが、傷を残していないところを見ると、簡単な医療器具くらいは手許にあるのだろう。

写真はデジタルカメラで取ったものが、高性能プリンタで特殊紙に印刷されている。
おそらくは、それなりの――氷河には理解し難いものだったが――美意識を持っているらしい。
届けてきたのは流しのバイク便。電話一本でどこにでも呼び出せるサービスである。

その経過時間。
移動可能距離。
移動手段。
休日の日中の都内の渋滞状況。

おそらくはわざとつけたのだろう、封筒に残るオリエンタル・ノートの香り。
写真の、かなり大きいと思われる窓からの日光と影の角度。

写真に映る寝台。
シーツ等の材質。
全く写っていないわけではない壁と床に敷かれた絨毯。


正規ルートを辿り、あるいはグラード財団の力を借りれば、入手できない情報でもなかったのだが、今はそんな悠長なことをしている時間はない。
氷河はあちこちの企業のコンピュータをハッキングし尽くして、必要な情報を猛スピードで収集し始めた。


犯人像と場所はかなり絞り込めそうだった。





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