「コンサートを開かないか、この国で」
「え?」

望む答えを返してくれない氷河の前で俯いていた瞬に、氷河が突然そんなことを言い出す。

「小さなコンサートでいい。セッティングは俺がする。俺がこの国のクラッシック界の者たちに声をかけよう」 

「…………」

日本ではともかく、この国では瞬は全く無名のピアニストである。
氷河が急にそんなことを言い出した意図が、瞬にはわからなかった。
それが拒絶なのか、それとも瞬を受け入れようとしてのことなのかが。


氷河は自分に自信をつけさせようとしているのだろうか。
あるいは、その演奏会で失敗すれば、氷河は自分を多くの聴衆に望まれるピアニストではないのだと安心して、側に置いてくれるようになるのだろうか。
それとも、幻滅するだけなのだろうか。

氷河の真意がわからないまま、しかし、瞬にできたのは、氷河の提案に頷くことだけだった。
コンサートを開くことで、膠着してしまったような今のこの状態が、どういう方向に向かってなのかはわからないが動き出す。
それだけは、瞬にもわかったから。





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