故国に戻った瞬を待っていたものは、約束された成功だった。
氷河が催してくれた演奏会の成功の報は日本にも届いていたし、日本という国は、概して海外で成功した者への評価が甘いのだ。

しかし、それがなくても――ロシアでの成功の実績がなくても―― 瞬の成功は当然で必然のものだっただろう。
幼さから抜け出し、暖かさと悲哀とをまとった瞬の演奏は、実際人々の胸を打つものだったのだ。


演奏会は成功に次ぐ成功。
望んでいた以上の評価と栄誉。


しかし、瞬の心は、ロシアを後にしたその日から血を吐き続けていた。

自分の演奏を待っていてくれる多くの聴衆と、自分を突き放したただ一人の人。
しかし、そのただ一人の人は、誰よりも瞬の演奏に価値を認め、その演奏に意味を感じてくれていた人だった。

ただ一人の真の理解者と、多くの人々の賞賛。
人は、その二つのどちらを、より強い思いで欲するものだろう。

答えは、その一方を失い、その一方を得た今の瞬にもわからなかった。
ただ、その一方を失ってしまったという事実が、瞬の胸に大きな喪失感を抱かせていた。





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