わだかまりが解けた気分で氷河が自分のデスクに戻ると、そこには別の問題が待ち構えていた。

「あの新米常務、何か言ってきたんですか?」
先程、受付で瞬の飾った花を『恥ずかしい』と断じた女子社員が、氷河に尋ねてきたのである。
どうやら、自分が立ち去ったすぐ後に瞬がやってきたのに気付いて、氷河と瞬のやりとりをずっと気にしていたものらしかった。

「いや、別に」
さりげなく、氷河は彼女の懸念を聞き流そうとした。

そんな氷河に、彼女は言っていいものかどうかを迷った様子を見せてから、嫌そうに口を開いた。
「あの常務、やたらと部長を呼ぶんですよ」
「なに?」
「なるべく、部長は席を外していると言うようにしているんですが」
「…………」

何故、部員たちは、そんな頼んでもいないようなことをしでかすのか。
氷河は彼女を咎めようとしたのである。
そこに、
「部員は全員、部長の味方ですから、あんなガキに我儘は言わせませんよ」
ご注進に及んだ女性の横から、プロジェクトチーム内で一番の若手メンバーが口を挟んでくる。

「…………」

多分、彼等は悪意はなく、善意で、常務から氷河を守るためと考えてそんなことをしでかしているのだ。
それは、氷河にとっては有難迷惑としか言いようのない、だが、善意の行動なのである。

「常務の伝言はちゃんと伝えろ」
「どうせ、ろくなことじゃありませんよ」
「それでもだ」

不安になった氷河が瞬にメールを出すと、弾むように嬉しそうな返事がすぐに返ってきた。
氷河は、部員たちがこれまでしていたことは伏せて、これから用がある時にはパソコンか携帯電話のアドレスにメールを送り合うことを、瞬との間で取り決めたのである。

瞬にその旨のメールを送信してから、氷河は思わず嘆息してしまったのだった。

(味方が邪魔をしていたのか……)
そう思ってから、
(邪魔? 何の邪魔だ?)
と、自分に問うてみる。


答えは、もうわかりかけていた。





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