「で、瞬がいらないと言っているのに、おまえは今夜もバイトに行くわけだ」

それでも、瞬を放っておいたまま、バイトに向かおうとする氷河を、紫龍は城戸邸のエントランスで呼び止めた。

階段の半ばに立って呆れた顔をしている紫龍を見上げ、氷河が表情にも出ない程度に薄く苦笑する。

「乗りかかった船から降りられなくなったもんでな。いずれにしても今夜が最後だ。あの託児所は。明日には営業許可が下りて、大っぴらに営業ができるようになるそうだし。金をもらったら、明日プレゼントを買って、瞬に贈る」

「瞬が受け取るとも思えんが。瞬は、ずっと側にいてほしいと思っている相手に、金で買えるものを贈るのは言語道断だと言っていたぞ」
「……5000の次は10000理論か。自分にそんな欲はないくせに」

「瞬の理屈より、おまえのしていることの方が一般的だと、最初は思っていたんだが……瞬と話していると、おまえが意地を張っているだけのように思えてくる」

「その通りだからな。……まあ、今日までの契約だったし、明日、瞬に土下座して謝るさ」

それができるくらいなら、そのバイトを他の仲間にでも譲って、さっさと瞬の望み通りにしてやればいいものをと、紫龍は肩で大きく吐息した。





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