氷河が救急車で病院に運ばれたのは、まさにその夜。
瞬のバースディ前夜のことだった。

「なんか、ヤクザの団体相手に立ち回りしたらしくってさぁ」
「まさか、そんなモノにやられたわけじゃないでしょ !?  氷河は仮にも聖闘士だよ!」

病院からの連絡を受けた星矢から事情を聞かされた瞬の手は、さすがに少々震えていた。

「全員ぶっ倒してから、床に落ちてたバナナの皮で滑って転んでアタマを打ったらしい。おまえにそっぽ向かれて、腑抜けてたんだろ。とりあえず、精密検査するとかで、今夜は病院にお泊まりだとさ」

「そ…そう……」
事態は、さほど悪くはないらしい。
それでも――爆笑もののバナナの皮の話を聞かされても――瞬は爆笑するどころか、その頬を青ざめさせたままだったが。


「瞬、病院に行かないのか」
紫龍が、気遣わしげに尋ねると、瞬ははっと我に返ったような顔になって、気丈に言い放った。

「ば……バナナの皮で滑って転ぶなんて恥ずかしい真似する人に、なんで僕が会いに行かなきゃならないの! ばっかみたい! 命に別状がないなら、僕が行く必要なんかないじゃない! アタマ打って少しはマトモになればいいんだ!」

「……無理しねー方がいいぞ?」

星矢もまた水を向けてやったのだが、瞬は顔に似合わず頑固だった。

「氷河が反省して、僕に謝ってくるまで、絶対に行かない!」

断言する瞬の瞳が今にも泣き出しそうなのを見てとって、星矢と紫龍は、心底困り果ててしまったのである。





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