翌朝、ラウンジにおりてきた瞬の周囲には、超複雑怪奇な小宇宙が漂っていた。
氷河が、その横で妙に楽しそうな顔をしている。


「しゅ……瞬。今度はどーしたんだよ?」
「星矢……」

星矢は、仲間を心配してというより、己れの平穏な生活が脅かされることを恐れて、瞬に尋ねた。

「星矢ぁ…… !! 」
その星矢に、瞬が涙ながらにすがりついていく。

「氷河がひどいんだよ! 氷河ってば、氷河ったら、氷河のばかーっ !! 」

抱きつかれた瞬に大泣きに泣かれ、星矢ははっきり言って、滅茶苦茶に戸惑った。
自分の胸の中で、か弱い処女(オトメって読んでね)のように泣きじゃくっているのが、なにしろ――世界最強の聖闘士なのだ。


「氷河―っっ;; おまえ、今度はいったい何やらかしたんだよー;;」
この異常な展開に、星矢こそが泣きそうな顔と悲鳴のような声で、氷河に尋ねる。

尋ねられた氷河の方は、しれっとしたものだった。
「ん? ああ。夕べ、ちょっとした悪戯心で瞬を放ったらかしにした」

「? あ?」

「だから、その寸前で瞬から離れた」
「………?」

「氷河ったら、今年はここまでにして、来年、完遂してやるなんて馬鹿なこと言ったんだよっっ !! 」
「へ?」
「だからねーっっ !! 」

「????」


――純情可憐な処女(オトメって読んでね)は、実は星矢の方だった。





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