同日。

星矢は星の子学園の子供たちを連れて、某ファミレスに乗り込んできていた。

「俺、ハンバーグーっ!」
「俺はエビフライー!」
「俺は、ぐっと渋く、カレイの煮付け膳」
などと、周囲の迷惑も顧みずに騒ぎ立てるガキ共をたしなめもせず、
「俺はスーパー・スペシャル・エビ天丼な!」
と、浮かれて宣言した星矢の前に現れたウエイターは、射手座サジタリアスの黄金聖闘士・アイオロスだった。

「な……なんで、あんたがこんなとこに……? し…死んだはずじゃなかったのかよ?」

かろうじてエプロンつきミニスカートではなかったが、支給された制服には違いない安手のジャケットを身に着けている射手座の黄金聖闘士には、今の自分の姿を恥じた様子もなければ、己れの境遇を嘆く色もない。

「黄金聖闘士全員の総力を結集して倒すべき敵が地上に現れたとあっては、おちおち死んでもいられまい」
アテナのために働くこと、アテナの命令に従うこと、そして、その命令を遂行することに喜びを感じこそすれ、アテナの命令に疑いを抱くような思考回路は、彼の脳内には組み込まれていないようだった。

そして、それは彼の弟もまた同様らしい。
星矢たちのついたテーブルの真向かいのテーブルの横には、どこぞのテニススクール帰りらしい主婦の集団からにこやかにオーダーを受けている獅子座の黄金聖闘士の姿があった。

「夕べ、黄金聖闘士全員が来日したんだ。カミュとミロと俺たちは夕べから、他の者たちも今日から仕事に就いているはずだ」

「ぜ……全員……全員なのか? 全員が、そのリリィちゃん殲滅のために……?」
「ああ」

「…………」

では、一般人なら誰もが備えているはずの思考回路を、黄金聖闘士たちは誰一人として持っていなかったということになる。

「うぉ〜い、リリィちゃんお一人、めでたく昇天だぞ〜 !! 」


厨房から響いてきたアルデバランの威勢のいい声を聞くや、星矢は、人目もはばからずテーブルに突っ伏して号泣した。





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