「沙織さん、いったいなぜ老師たちにあんなことを…!」 と、紫龍。 「死んだ者を生き返らせてまでさせなきゃならないことかよ、あれが……!」 と、星矢。 「実に面白いことを思いつく。さすがはアテナだ!」 というのが、一輝である。 「…………」 氷河は別にどーでもよかったので無言。 「…………」 瞬は、あれは立派な仕事なのだと自らに言い聞かせて無言。 アテナは――そして、アテナは、目の前に勢揃いした青銅聖闘士たちを一渡り眺めてから、白々しいほど落ち着いた口調で、彼等に告げたのだった。 「ギリシャにもリリィちゃんははびこっているけど、高温多湿・国民総グルメな日本ほどではないわ。数では劣ると言っても、持てる力はこちらの方が上なんだから、最も敵の集中しているところから責めるのがセオリーというものでしょう。日本のリリィちゃん撲滅が完了したら、次は中南米に向かわせるつもりよ」 「…………」 沙織と星矢たちとでは、最初から論点が違っていた。 そうではないのである。 星矢が、そして紫龍が、この事態を受け入れ難いのは、兵法がどうこうという次元のことではないのだ。 「しかし……黄金聖闘士ほどの者を、たかがゴキ……いや、リリィちゃんごときのことで――」 「リリィちゃんの力を見くびっているわね、紫龍。リリィちゃんは、地上に人類が誕生する以前に誕生し、恐竜が絶滅しても生き延びるほどの生命力と環境適応力を持っているのよ。そして、人類が滅びても、地球上の全ての生物が死に絶えても、最後まで生き残るだろうと言われているわ。リリィちゃんは、今倒しておかなければならない、人類の究極の敵なのよ!」 「けど、沙織さん…!」 食い下がろうとする星矢の言葉を、しかし、沙織はにべもなく遮った。 「働かざる者、食うべからず! 星矢、あなたも尊敬する黄金聖闘士たちと同じ仕事をしたいのかしら?」 アテナににっこりと微笑んでそう言われてしまっては、星矢にも紫龍にも返す言葉は思いつかない。 星矢と紫龍にできたのは、女神の前で無言のままに肩を落とすことだけだった。 |