瞬を言いなりにすることのできる時間は、だが、限られている。
その限られた時間が過ぎると、俺はまた一輝への嫉妬と憎悪と敗北感と屈辱にまみれた一人の男に戻る。

俺は、瞬の中から一輝を追い出したくてたまらなかった。


「もう、奴は帰ってこない」
「そんなことないよ」
「おまえとの約束なんか忘れてる」
「兄さんは、これまで一度も僕との約束を違えたことなんかないんだ」
「なら、これが最初の約束違反だ」
「氷河、どうして、そんな意地悪言うの」

『……おまえが俺だけを見てくれないから』

そう言いかけて、だが、俺はその憤りを言葉にすることはできない。

結局、俺は、いじめっ子だったあの頃から、少しも大人になれていないのだろうか。


そんなはずはない。
俺はもう、自分の気持ちにすら気付いていなかった、あの頃のガキじゃない。

自分の望みを叶えるためには、そして、瞬に笑顔を運んでくるためには、駄々をこねているだけでは駄目なのだということを、今の俺はちゃんと知っている。

ちゃんと知っているんだ。






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