瞬は意を決して、だが、恐る恐る氷河に握りしめられたままの手を伸ばし、氷河の頬に触れた。 氷河は微動だにしない。
汚れているはずの瞬の手から逃げようともしない。
血に汚れているはずの瞬の手を自分の頬に押し当て、その上から、氷河は、なお強く瞬の手を握りしめた。


そうして。
息詰まるような氷河の切願と認容に触れて、瞬はやっと、自分の手の本来の務めを思い出したのである。

「ごめんね、氷河。僕、どうかしてた。僕の手は、氷河を抱きしめるためにあるのに」

「…………」

そう告げた瞬の声音は、罪に怯える人間のそれではなかった。
罪を受け入れ、その罪を贖おうと努める人間の、己れの罪を知る故の優しい響きを呈していた。

その優しい響きに触れ、氷河はやっと全身の緊張を解くことができたのである。
狂わずに済んだのは、瞬ではなく氷河自身だったから。

「そうだ。思い出してくれたんだな」

過去に流された血。
今も瞬を責める罪の重さ。

だが――。

「おまえは、俺の春で、俺の明日だ」

安堵のあまり、まるで倒れかかるようにして瞬を抱きしめた氷河の背に、瞬はその腕をまわしていったのである。
そして、その手を氷河の広い背に押し当てた。

そうすることのできる手を自分が持っていることが、瞬は心底から嬉しかった。






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