そして平生が戻ってきたのである。


闘いはもうない。
もし闘いが起こっても、自分の手が何をするためにあるのかを確信できるが故に、闘いをためらうことはないだろうと思える日々。

だから、瞬の心は穏やかだった。





「瞬、手は大丈夫か」
「うん」
「……でも、まあ、用心に越したことはない」

「――洗ってくれるの?」

瞬に尋ねられた氷河が、目許に何やら妖しげな笑みを刻む。




真っ昼間からラウンジを出ていった二人に、星矢は、思い切り顔を歪めた。

「氷河の奴、ほんとに瞬の手を洗ってやってるのか?」
「のようだな」

「…………手だけじゃないんだろ?」

心底から嫌そうに言う星矢に、紫龍は苦笑を返してやることしかできなかった。
「まあ、氷河はスティグマだから、どこを洗ってやってるのかは推して知るべし、だな」

「スティグマだよなぁ……。瞬がいないと、血を流して死んじまうんだ」
「だから助平でも許せるんじゃないか」

「ん……そうだ…な」
そう呟いて、星矢は微かに頷いた。

『そうでなかったら、殴り倒してやりたいような奴だよな!』という言葉を、星矢は瞬のために無理に喉の奥に押しやったのである。


当の氷河は、無論、星矢のそんな寛容と忍耐など知る由もなかった。




その頃、噂のスティグマは、


「ほら、瞬。そこも洗ってやるから、いー加減に観念してバスタブからあがってこい」
「だって、氷河のYシャツが濡れちゃうよ」
「俺はYシャツなんかよりおまえの方が大事だから、おまえはそんなことは気にしなくていいんだ!」

とかなんとか言いながら、実に楽しい行為に没頭しまくっていたのである。






Fin.







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