「貴様、心配じゃないのか」
嫌味は言うが、弟を心配する素振りもみせない一輝を不審に思い、氷河は尋ねた。

「貴様の時ほどには」
「俺は不出来な諜報員崩れだ。アイザックは俺よりはずっとマトモに仕事に励むに違いな――」
自分などよりアイザックの方がずっと危険な相手なのだと伝えようとした氷河を、一輝が不愉快そうに遮る。
「少なくとも、瞬は、貴様の時のように、あの男と同衾することはあるまい」

「…………」

一輝のその呟きに、皮肉の色は含まれてはいなかったが、それまで言われたどの皮肉よりも、それは氷河の意識に鋭く突き刺さってきた。
一輝はもちろん、瞬を心配しているのである。
いつも、心配しているのだ。

誰かが、ゲノム・ラボの研究成果を手に入れようとして、瞬に近付いてくるたびに。
瞬が、得体の知れない輩からの接触を受けるたびに。

虎穴に入って虎児を得ようとする――接触者の正体を知りつつ、自らその懐に飛び込んでいって、
自分の研究所の秘密を守ろうとする――瞬の、防御にも似た攻撃が始まるたびに。






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