瞬の前で、物分かりのいい優しいお兄さん――を演じているアイザックをロビーの隅から遠目に眺めながら、氷河は彼と最後に会ったのはいつだったかを思い出そうとしていた。
どこかのクラブで酒を飲んで、いつもの別れがそうだったように、再会を約するでもなく気軽に別れたのだったに違いない。
氷河の記憶はあやふやだった。
瞬に関することなら、初めて出会った時、瞬が身に着けていたジャケットの微妙な色あいすら憶えているというのに。


アイザックは、某国のテレビ番組制作のための取材という触れ込みで瞬に面談を求めてきていた。
駆け出しの頃に無茶をして負ったという左目のかなり大きな傷痕のせいか、黙っていると結構な強面に映る男なのだが、ホテルの喫茶室で、間に2つのティーカップを置き、瞬と話しているその表情はやわらかい。

以前もそういう顔をすることのある男だったのか、それとも瞬が相手だから自然にそうなってしまっているのかを、氷河は判断しきれずにいた。

いずれにしても、瞬が自分以外の男と和やかに会話している様など、氷河にとってはあまり嬉しい光景ではない。
抑え難い苛立ちを自覚しつつ、二人を見守っていると、ふいにアイザックが席を立った。
それだけのことで、目に見えて気分が良くなっていく自分自身に、氷河は少々呆れてしまったのである。

いずれにしても、それで、氷河はほんの少し気を抜いたのだが、一人になった瞬の側に、今度はアイザックではない男が近寄っていく。
彼が何事かを瞬に話しかけ、瞬は困惑したように彼を見上げた。

(アイザックはチームを組んできていたのか…… !? )

氷河がそう思った瞬間に、彼は背後から鈍器のようなもので後頭部を殴打されていた。






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