妖精からもらった幸福の花が咲いたのは、それから間もなくのことでした。

美しい、けれど、どこか儚げな白い花。

その日、眩しい朝の光の中でその花を見た時のしゅん王子の喜びは、しかし、ほんの一時だけのものでした。

幸福の花は咲きました。
けれど、花の咲く前と咲いた後で、しゅん王子の周囲には何の変化も起きなかったのです。

奇跡のように、しゅん王子たちの救出者が現れるわけでもなく、神様の手が差し延べられるわけでもなく。
立派な宮殿がそこに出現することもなければ、山のようなご馳走が降ってくることもありませんでした。
宝石を散りばめた豪華な服どころか、粗末な木靴の一足さえ、しゅん王子の前には現れなかったのです。



「どうしてっ !?  どうしてなのっ !? 」

しゅん王子は半狂乱になりました。

「王子、落ち着いてください!」

「僕、祈ったのに! 種を植えてからずっと、毎日、祈ったのに!」
「王子!」
「氷河が幸せになるように、氷河がこの島から出られるようにって、あんなにあんなに祈ったのに…っ !! 」

なのに、どうして、そんなささやかな願いが叶わないのでしょう。
それが、神の御心に背いた願いであるはずもないのに。

「どうして、何も変わらないのっ !? 」

「しゅん!」

ひょうがに名前を呼ばれて、しゅん王子は我に返ると同時に息を飲みました。
しゅん王子の両の腕を掴んだひょうがの瞳が、あまりに辛そうな色を湛えていたので。

「花の種は王子の望みを叶えてくれているんです」
と、ひょうがは言いました。

「……俺は、この島から帰ることを望んでいない」
――と。

「え?」
「王子と二人きりでずっとここにいたいと俺が望んでいるから、だから……おそらく……」

「…………」



しゅん王子の思い描いていたひょうがの幸せと、ひょうが自身が望む彼の幸せは、まるで違っていたのです。


しゅん王子の祈りは、では、無駄なこと、無意味なことだったのでしょうか。






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