「王子の城の庭園は、月に一度国民に開放される。昔、まだ俺が10歳かそこいらの子供だった頃、俺はそこで王子に会ったんです。王子は俺に花をくれた。俺はちょうど両親を失くした時で、多分暗い顔をしていたんだと思う」

ひょうがは、しゅん王子の気持ちが落ち着くのを見計らって、語り始めました。

『僕、お花が好きなの。綺麗なお花を見てると、嬉しくなるから』 

幼かったしゅん王子は、そう言ってひょうがに白い花を一輪手渡したのだそうでした。
ひょうがの話を聞いても、まだ5歳にもなっていなかった頃の記憶は、既にしゅん王子からは失われていましたが。

「だから、俺は造園家になろうと思った。王子を楽しませることのできる美しい庭を造りたいと思ったから」

「ひょうが……」

しゅん王子は、たった一輪の花、小さな子供の何気ない一言で“今”――その時の未来――を決めたのだと告げるひょうがに驚きました。

「だから、ひょうがは僕を助けてくれたの……? 何もできない僕を?」
「王子が何もできないなんてことはありません」
「でも、僕は、貝殻ひとつ拾えないの……」
「王子は受け取ってくれた。俺の獲ってきた食べものや、俺の作った家」
「…………」

それが何だというのでしょう。
受け取ること――それは誰にでも――しゅん王子でなくても、誰にでも――できることではありませんか。

なのに、ひょうがは、
「それが、どんなに嬉しかったか」
と、とても嬉しそうに言うのです。

「そんなこと……」
「そんなことじゃない! 大事なことなんだ!」
まるで、神の恩寵に感謝しているように言うのです。

「王子に受け取ってもらえることが、俺にはとても大事なことなんだ……」

「ひょうが、でも……」

それでも、しゅん王子には、自分のしたこと――ただ受け取るだけのこと――が、それほど大層なことだとは思えませんでした。
反駁しかけたしゅん王子は、けれど、その言葉を言い終える前に、ひょうがに抱きしめられていました。
「嬉しかったんだ、本当に」

「ひょうが……」

しゅん王子は、ひょうがのキスも受け取りました。

それから もっと熱くて優しいもの、も。 






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