ふと。

その笑い声が途切れ、
同時に、雨の音も聞こえなくなった。

世界中に二人しかいない。
それがわかったので、氷河は瞬の肩を抱き、瞬の唇に、雨の匂いのする自分の唇を重ねた。

瞬は抗うこともなく、氷河の腕の中にいた。
それが、とても自然なことに思えたから。

氷河の口付けは深くなり、瞬の濡れた身体を抱きしめる腕に熱がこもる。
息苦しくなって、瞬は氷河の背にしがみついた。

瞬の訴えに気付いた氷河が唇を離す。
解放された唇で大きく吐息した瞬は、次の瞬間には喉許に氷河の唇の熱を感じていた。

氷河の雨に濡れた手が、瞬の髪に絡む。
氷河の口付けに押されるようにして半ばのけぞりながら、瞬は氷河の名を呼んでいた。

「氷河…!」


拒絶ではなかったのだが、瞬の唇から洩れた声にはほんの少し戸惑いが混じっていた。

途端に、音が戻ってくる。
二人の周囲には二人以外のものがあり、雨もまだ降り続いていた。

唇と腕とを離し、無言で見詰め合った。
どうすれば、もう一度世界を二人だけのものにできるのかはわかっていた。

だが、氷河はそうしなかった。
瞬は、一人ではそうすることができなかった。


雨が強すぎたのかもしれない。
雨の音が大きすぎたのかもしれない。

雨が止んでしまってからも、雨の音は二人の耳から離れなかった。




それだけ――だった。

翌日、氷河は城戸邸を出ていった。






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