「なぜおまえは変わらないんだ。あれから、5年も経ったのに」

二人は以前と同じように二人だった。
今、城戸邸には瞬しかいない。
なぜ瞬が城戸邸を離れようとしないのかを知っている仲間たちが、時々、瞬の許を訪れる時以外、その広い屋敷はひっそりと静まりかえっていた。

「僕が変わってしまったら、氷河は僕を見付けられないじゃない」

場所は場所でしかない。
そこにいる瞬の形をしたものに出会っても、氷河がそれを瞬と認めなければ、瞬は瞬たりえないのだ。

「氷河が変わってしまっても、僕は必ず氷河だってわかるのに」

「わかるものか」
変わってしまった氷河が、投げやりに呟く。

昔仲間たちで集った懐かしく暖かい部屋にいる金髪の男は、5年前の、青年になりかけた少年ではなかった。
青年ですらなかった。
まるで、生きることに疲れきった老人のようだった。

あの時よりもはるかに背が伸び、心とは裏腹に腕や脚に力が満ち、たくましい体躯を備えるようになってはいた。
身体は成人した男のそれで、だが、心は老人のように力を失っている。

否、氷河の心はまだ、青年というには幼すぎた5年前の少年のまま、迷い続けているのかもしれなかった。

「わかるよ」
「毛唐だからか」

言ってしまってから、馬鹿なことを言葉にしてしまったと悔やむ。
氷河の失言を、瞬は微笑って受け流した。

「氷河の金色の髪が、迷い過ぎて黒い色に沈んでも、僕には氷河がわかる」

あまり性急に5年の時間を縮めようとして、臆病な"大人"をまた怯えさせることを怖れているのか、瞬は氷河から距離を置いたところにいた。

「氷河の瞳には、いつも僕が映ってるから。あの雨の日の僕が、まだ残ってる……氷河の瞳」

「…………」


瞬には本当に見えているのかもしれない――氷河はそう思った。






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