「どうして逃げたの」

瞬が、意を決したように、それでも、どこか氷河を労わるような口調で尋ねる。

「…………」

その答えを告げなければ、再び瞬の側に戻ることは叶わない。
わかってはいても、氷河は答えをためらった。

だが。

「恐かった。おまえは俺を知っている」

今更嘘をついても始まらない――のだ。

「俺が弱いことも、おまえは知っている。知っていて許してくれるおまえに、俺は夢中になるだろう。俺はおまえなしで生きていけなくなるに決まっている。そんな自分を、俺は――」

「プライドが許さなかったの?」

それは、少年らしく、無意味で根拠のないプライドだった。

「……そうだ」

今なら、それがわかる。

「おまえは強い。おまえは勝ち負けにこだわらないから。俺は――」 

「負けるのが嫌い」

「……そうだ」

瞬の言う通りだった。
ただ、それだけのことで、氷河は5年の時を無為に過ごすことになったのだ。






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