「……何でも知ってるんだな」 ソファに身体を沈め、諦めたように呟いて、少年の姿のままの瞬を、氷河は仰ぎ見た。 「知ってるよ。氷河が頑固なことも、僕の前で見栄を張ることも、強いふりをしたがることも」 瞬が、掛けていた椅子から立ち上がる。 ほんの少し、瞬は氷河の側に近寄った。 「そして、氷河は僕のことを知らな過ぎるの」 「…………」 「氷河が負けるのが嫌いなんだったら、僕はいつだって氷河に負けてあげたのに。氷河がいないと僕は生きていけないんだって言って、行かないでって泣いてみせてもよかった。側にいてほしいって土下座して頼んであげてもよかった。僕は、そんなの平気なんだから。なのに、氷河は……!」 それなのに、氷河は黙って姿を消した。 その望みを、言葉にもしないままで。 瞬は、逃げ出した男の弱さを責めてはいない。 たとえ5年もの時間を無為に過ごさせられたとしても、瞬は、自分にそれを強いた相手を責めるような人間ではない。 それは、氷河にもわかっていた。 瞬の瞳は、雨ではないもので潤んでいる。 瞬は責めてはいない。 ただ悲しんでいるだけなのだ。 しかし、その悲しみこそに、人は追い詰められるものだということを、瞬は知っているのだろうか。 なじられ罵倒された方が、罪びとの心は軽くなる。 だが、瞬は決してそんなことはしない。 できないのだ。 そして、氷河は、瞬のその、弱さにも似た残酷な強さが好きだった。 「もう、いい。運命に逆らったって、ろくなことにはならない。おまえの代わりなんか、見付けられないんだ。俺はおまえに結びつけられてるんだ。俺はおまえと離れては――」 生きていられない――。 事実、瞬と離れていたこの5年間は、氷河にとって死んでいるも同然の時間だった。 |