「運命?」

まるで“運命”というものとの戦いに敗北した者のようにそう言う氷河を、瞬は少しばかり悲しそうに見詰めた。

「そうかもしれないけど……」

瞬は、たった今“運命”に満たされた者であったから、“運命”に傷付いた者をどう気遣えばいいのかがわからなかった。
だから、瞬は、事実だけを告げた。

「でも、忘れないで。その運命は、あの雨の日に氷河が自分で定めたものだよ。自分以外の何かに定められた運命なんてあるはずがないじゃない」

「ないのか」

「そうだよ。僕だって……僕は、自分で氷河を待つことを決めたの。捜しにもいかない。氷河が僕のところに戻ってくるのを待つことを、いつまででも待つことを、僕は自分で自分の運命にしたの」

「俺がどこかでのたれ死んでたら、どうする気だったんだ」
「永遠に待って、氷河を待ち続けて、氷河が戻ってきてくれる日を夢見ながら死んでいくの」

「そんな運命を、おまえは自分から望んで選んだと言うつもりか」
「自分で決めて、でも、自分では変えられない。それが運命だよ」

瞬は運命を従容として受け入れる。
それが自分自身が決めた運命なのだと信じていられるから、なのだろう。


「……俺がおまえのところに戻ってきたのも、俺の決めた運命なのか」

「…………」
瞬はそれには何も答えなかった。
氷河の運命を決めたのは瞬ではない。
だから、瞬には答えられなかったのだ。


「…………。僕の運命が……氷河の運命とすれ違うようなものじゃなくて良かった……」

代わりに、そう告げて微笑する。


氷河は、それ以上耐えていることができなくなって、瞬を抱きしめた。






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