「おはよー、星矢。今日は陸上部に来てくれよ!」 「いーや、バスケット部だ!」 通学路で、星矢に声をかけてくるのは、運動部の部長や副部長がメインで、 「瞬くん、おはよう。相変わらず可愛いわねぇ」 「きゃー、ほんとだーv」 瞬に声をかけてくるのは、2、3年生の女子がほとんどだった。 瞬がムッとして、それでも上級生への礼儀だけは守り、 「おはようございます」 と、慇懃な挨拶を返す。 他の時間はほとんど瞬と一緒だが、登校だけはいつも瞬とは別行動の星矢には、それは見慣れぬ光景だった。 「そんな顔すんなよ、瞬。仕方ねーじゃん。おまえ、ほんとに可愛いんだから。とても一輝の実の弟とは思えねーぜ」 で、とりあえず、忌憚のない意見を述べてみる。 瞬の返答には、平生の瞬の口調にはない棘があった。 「高校1年の男子生徒に向かって、『可愛い』って言うのが褒め言葉だと思う?」 が、幸いなことに、星矢は、深々と刺さった棘にも気付かないタイプの人間だった。 「『可愛くねー』よりは褒めてるじゃん。だいいち、おまえ、『瞬くんてば、たっくましー』って言われて、素直に喜べるか? おまえにそんなこと言ったら、それってただの嫌味だぜ」 「星矢ったら、僕にそんなこと言える立場? 写させてあげないよ、宿題」 「わー、そんなムゴいこと言うなよ! おまえは、校内一可愛くて優しいので名を売ってる、グラード学園の白雪姫だろ」 「ぼーくーをー本気で怒らせたいみたいだね、星矢?」 突然通学路で追いかけっこを始めた下級生に、一輝と紫龍が呆れた顔になる。 「3歳児並みの喧嘩だな」 「朝っぱらから元気なもんだ、1年坊主は」 子犬のようにじゃれ合う二人を見ているのは、彼等にはそれなりに楽しいものだった。 おそらくは、登校中の他の生徒たちにとっても。 そこにあるのは、夏休み明けの高校生たちの、平和でのどかな通学風景だった。 |