「星矢はさ、宿題はしなくても、お掃除はサボらないから偉いよね」 「俺は、自分にできることはする主義なんだ。いくらでも尊敬してくれ」 数学に関してのみ、絶対に克服できないという確信を抱いている星矢に、瞬は溜め息を漏らした。 「で、今日はどこ行くの」 瞬と星矢は、特定のクラブに籍を置いていない。 しいて言うなら帰宅部在籍で、それと言うのも、学業の方はともかく、スポーツ全般を超高校級の力でこなしてしまう星矢が、入学時に一つの部を選択することができなかったからだった。 星矢は毎日気紛れで各部を渡り歩き、瞬はそれに付き合うというスタイルが、瞬たちの学校では認められてしまっていた。 「今日は、野球部、行ってみよっかな」 「まだ暑いのに、水泳部じゃないの」 「水泳部はダーメ。こないだ行ったら、おまえを見た途端、水泳部の男共が5、6人、プールに飛び込んじまっただろ」 「え? そうだっけ? でも、どーして?」 「バレちゃマズいって思ったんだろ」 「何が?」 「おまえに反応しちまったのが」 「?」 星矢の言葉の意味がわからずにきょとんとしている瞬の腕を掴んで、星矢は瞬に方向転換を促した。 「ああ、とにかく、水泳はダメだ。おまえのパンツいっちょのカッコは、傍迷惑だ」 「だから、どーしてってば」 「んなこと言えるか、アホウ!」 今ひとつ合点がいかないでいるらしい瞬を、星矢がプールではなくグラウンドの方に引っ張っていく。 「それよか、野球! 俺さあ、夕べ、もんのすごい魔球を考えついたんだぜ」 「夕べ? 宿題もせずに?」 「細かいことは気にすんな。でさ、その魔球、ちゃんと命名済みなんだ。サンダーボールってーの。おまえ、受けてくれよな。他の奴らじゃ、ニブくて受けられそうにないくらいの剛速球なんだ」 まだ投げたこともないくせに自信満々で言い放つ星矢のその言葉を聞いて、瞬は声をあげて笑った。 |