嵐が収まった時には、瞬は安堵したに違いない。
猛り狂った波に呑み込まれそうになり、引き裂かれそうになり、それでも、深い海の底に沈められずには済んだのだと。

かわいそうな可愛い俺の瞬は、それがまだ嵐の序章に過ぎないことも知らないで、自分の思いが遂げられたと思い込み、満足していたのだ。


俺は、瞬を抱きたくて抱きたくて、殺してしまいたいほど抱きたかった。
人間になりたいという瞬の欲よりもなお、一人の人間を自分のものにしたいという俺の欲の方が強いのだということを、
人間の欲望は花のそれよりも深いのだということを、
人間になりかけたばかりの瞬はまだ気付いていなかったのだろう。


俺が再び挑みかかった時、瞬は一瞬不思議そうな目をした。
俺が何をしようとしているのか、自分が何をされようとしているのか、瞬はわかっていなかったに違いない。

瞬の身体の内側をすぐに俺のものにした。
瞬が声すらあげずに身体をのけぞらせる。


「氷河…っ!」
俺の肩にしがみつきながら、瞬は、やっとのことで掠れた声を紡ぎだした。

俺はそれに、何と答えたのか――。
ただ獣のように唸っただけだったのかもしれない。

心の内で、この花は俺のものだ、この人間は俺だけのものだ、と繰り返し叫んでいたような気がする。


これまで耐えていた、瞬を俺のものにしたいという欲を、一時的にでも満たされたと感じられるようになるまで、俺がどれほどの時間を要したのかはわからない。

そこは、時間のない世界だったから――。






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