「だいたいさ、おまえも何だってそんな可愛いカッコで来たんだよ」

振り払っても振り払っても引き剥がせないクモの巣のようにまとわりつくオオカミの群れを追い払い、なぜか青銅聖闘士たちの溜まり場にされてしまっている氷河の部屋に落ち着くと、星矢は開口一番、そう言った。

瞬の今日のいでたちは、パステルピンクのノースリーブブラウスに、瞬が身に着けるとほとんどキュロットスカートにしか見えない白のハーフパンツ。
どこから見ても、その目的地はペリボラスビーチかククナリエスビーチのリゾートホテルという格好だった。

「車に合わせたんだよ。可愛いでしょ、オレンジ色のバルケッタちゃん。氷河に見せたかったんだ」

瞬のその気配りが、氷河は、涙が出るほど有難くなかった。
彼は、そういう気配りは、ぜひとも二人きりでいる時にのみ示して欲しかったのである。
が、まさか、瞬に、
『人前ではシャツの袖をまくり、腕には赤いスカーフを結び、ダッフルコートもどきの上着を着て、オレンジ色のレッグウォーマーを着けていろ』
などという趣味の悪い要求を突きつけるわけにもいかない。

仕方がないので、氷河は、全くの別方向から、瞬の自省を促すことにした。
「……瞬、おまえ、歳いくつだ」
「え? えーと、16……」
「どーやって免許を取った !? 」

氷河にそんなことを尋ねる資格があるのか否か、アニメ版聖闘士星矢において彼の無免許運転を見たことのある者なら誰もが疑念を抱くところである。
しかし、瞬はそんなことには突っ込まず、氷河の詰問に素直に答えた。

「運転免許センターの係の人ににっこり笑ってみせたら、ライセンスくれたんだ。あれって、ほんとは、日本国内での免許を提示しなきゃならないんでしょ? 僕、ラッキーだったみたい。ギリシャの人って優しいね」

「…………」

これは、『ラッキー』や『優しい』で片付けてしまっていいことなのだろうか。

「にしたって、何もカブリオレなんて……」
「オープンカーが良かったんだもん。氷河を助手席に乗せて、走ったらカッコいいでしょ。みんなに見せびらかしたいでしょ、僕の氷河と僕のバルケッタちゃんv」

免許も持っていない自分がなぜ車を購入できたのか。
そんな些細な(?)ことを気にかける瞬ではない。

「俺は車と同レベルなのか」
「拗ねてるの? かーわいv」

「…………」

車と同レベル説を否定してもらえなかったせいで、氷河は本当に拗ねた。
そんな氷河をからかうような仕草で、瞬が笑いながら氷河の耳許に唇で触れる。
「そんなことで、拗ねないでね」 
「む……」

途端に無表情に機嫌を直してしまった氷河に、星矢と紫龍は思い切り軽蔑の眼差しを突き刺した。






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