さて、黄金聖闘士たちの中には、一見病気に見えない者もいた。

その代表格が、氷河の師・アクエリアスのカミュである。
彼は、至って常識的な態度で、彼の立場上極めて妥当な戒告を己れの弟子に与えた。
「氷河、いくら親戚とはいえ、この祭典のことを一般人に漏らすとは、おまえには聖闘士としての自覚が無いのか」
「あ、いえ、瞬は……」

とても尊敬できない黄金聖闘士の仲間とは言え、仮にも自分の師匠である。
実は、瞬よりもはるかに儒教精神の発達している氷河は、一応、それなりに己れの師を尊敬していた。
師に対してまで虚言を弄するのは、氷河にはためらわれたのである。

氷河のその気持ちを察してか、瞬が横から助け舟を入れてくる。
「すみません。氷河の先生。でも、氷河は悪くないんです。氷河に僕の車を見せたくて、僕がこっそり追いかけてきたのがいけなかったんです。氷河を叱らないでください」
瞬は超可愛らしく首をかしげながらそう言うと、超々可愛らしく、氷河の師に向かってぺこりと頭を下げた。

嘘は、ついていない。


「あ、いや、決して、君を責めるつもりはないのだが……」
会話の流れ上、それ以上、弟子を叱責するわけにもいかなくなったカミュに、

「いいじゃないか。殺伐とした闘技場に可憐な花が咲いたようだ。私は基本的に美しいものは大歓迎だ」
と意見してきたのは、バラの花を手にした魚座の黄金聖闘士。

「激しく同意。ここは殺風景すぎていかん」
と、アフロディーテに賛意を示したのは、いつの間に来ていたのか、ペルセウス座の白銀聖闘士。

「可愛いツバメちゃんが飛んできてくれる分には、アタシも嬉しい限りだねぇ」
「同感同感。可愛気のある坊やは、アタシも大好きだよ」
魔鈴やシャイナといった女性聖闘士たちも、瞬の登場には好意的だった。

そこにまた、
「うおーい、可愛子ちゃん、ガソリンを仕入れて来たぞーっっ !! 」
と、ガソリン缶を持って登場してきたのは牡牛座の黄金聖闘士。

「あ、ガソリンが届いても、帰らなくてもいいからね〜」
「あの車、可愛いねぇ。君にぴったりだ」
その他は、どのセリフが誰のものでも同じである。
否、どのセリフが誰のものなのか、判別もできなかった。

氷河の部屋は、いつの間にか、相撲ブームだった頃の両国国技館並みに満員御礼状態になってしまっていたのである。




「み…みんな、ほんっとーに飢えてたんだなー」
いくら筆者が瞬ファンでも、この展開はなかろうと思えるような光景に、星矢は半ば呆れ顔である。

「こいつら、瞬が男だということがわかってるのか?」
さすがの紫龍も、眼前で繰り広げられているその光景には眉をひそめずにいられなかったのだが、
「そんなこと、どーだっていいんじゃないのか? 恐い女よりずっとマシじゃん」
瑣末なことを気にしない星矢は、実に鷹揚なものだった。






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