準決勝の対戦相手は、双子座ジェミニの黄金聖闘士。 紫龍の予想に反して、彼は善人モードで、アイオリア、シュラの二人の黄金聖闘士を打ち破り、準決勝まで勝ちあがってきていた。 もちろん、サガに対しても、瞬は、きっちり事前工作を施した。 が、 「闘いって本当に無意味ですよね、にっこり」 に惑わされている自分自身に業を煮やしたサガが、悪党モードに転身した時から、氷河優勢で進んできた試合の流れは一気に逆転してしまったのである。 悪人モードになると、サガは、爽やかなほどの正直者だった。 「力こそ正義! 力無い者に地上や可愛子ちゃんを任せておくと、ろくなことにはならないのだっ !! 」 誤解と思い込みが過ぎるような気もするが、自分に嘘をついていない(つもりでいる)人間は強い。 狂信・盲信の徒は、客観的視点を持った人間より、無意味無謀に強いのだ。 氷河が客観的視点を持った理性的人間かと言うと、それは疑問の残るところなのだが、所詮は聖闘士になりたてのペーペーである。 サガが善人モードから悪党モードに変身するなり、氷河はズタボロ、瞬は真っ青である。 しかし、試合が始まってしまってからでは、さすがの瞬も手出しができない。 「氷河ーっっ !! 」 瞬の悲痛な叫びがコロッセオに木霊し、その叫び声で、氷河は、今ここで自分が敗れ去るわけにはいかないのだということを、痛いほどに自覚した。 そんなことになったら、瞬が、この善人だか悪党だかわからない男の意のままにされてしまうことになるのである。 彼は、ここで死ぬ(?)わけにはいかなかった。 「この手だけは使いたくなかったが……」 ともすれば崩れ落ちそうになる自分自身に喝を入れ、ふらつく足で氷河は立ち上がった。 「ふはははははは、まだ何か無駄な悪あがきをしようというのか !? 」 勝ち誇る悪党モードのサガに、氷河は渾身の力を振り絞って、身構えた。 サガを睨み、小宇宙を燃やし、そして、突然コロッセオの客席のある一点を指差して、氷河は叫んだのである。 「あっ、瞬のぱんつが見えた!」 「なにっ !? 」 ここで、ためらいもせず、客席を振り返るところが、正直者の哀しさである。 これが善人モードのサガだったら、彼は振り返りたいのをじっと堪えてしまっていたかもしれない。 氷河は、客席を振り返ったサガに、持てる力の全てを振り絞って、ダンス省略版ダイヤモンドダストをぶちかました。 悪党の弱点を突いた氷河の、見事な逆転勝ちだった。 |