「いい? これ以上、僕を怒らせないで! 今度氷河にひどいことしたら、僕、次はもう容赦しませんからねっ !! 」
「こ…これで容赦したつもりか」
「したよっ!」
瓦礫の下から責めるように尋ねてきたデスマスクを、瞬は怒鳴りつけた。

瞬は確かに容赦した。
そうしようと思えば、瞬は、コロッセオを破壊することなしに、デスマスクのみを塵に化すこともできたのである。
コロッセオの破壊は、その持てる力をデスマスク一人に集中させてはいけないと訴える瞬の理性の為せる技だったのだ。

その一言でデスマスクを沈黙させた瞬は、今度は、氷河に向き直った。
「氷河っ!」

氷河は、デスマスクほどではないが、半死半生に近い状態だった。 
しかし、瞬が、自分の名を呼んでいるのである。
返事をしないわけにはいかない。
氷河は、根性でその場に上体を起こした。

「は…はい」
「氷河もいけないんだよっ! こんな馬鹿げたトーナメント、誰が勝ったって、何の意味もないのに、無駄なことにエネルギー使って、無駄に怪我して、こんなにぼろぼろになってっ !! 」

怒鳴るそばから、瞬の瞳には涙がにじんでくる。
その涙を脱ぐって、瞬は更に言葉を続けた。
「氷河以外の誰が勝ったって、僕は、そんなの簡単に追い払えるの! そんなこともわからないのっ !? 」

「す…すまん……。まさか、黄金聖闘士がこんなに……」 
そう言いかけて、氷河はちらりと瓦礫の間から顔だけ覗かせているデスマスクを横目で見た。
「弱いとは思ってもいなかった……」


(それは違う)
と、その場にいた聖闘士たち全員が胸中で叫んでいた。

デスマスクが弱いのではない。
瞬が強すぎるだけなのだ――と。

「それに、俺は……名誉や地上の平和のためというのならともかく、おまえのために闘えるのが少し嬉しくもあって……」

「…………」

氷河がそういう気持ちでいることは、瞬にもちゃんとわかっていた。
だからこそ、瞬は、氷河がくだらない武道会などに本気になっているのを、腕づくで止めることまではしなかったのだ。

悪い気は、していなかったのである、瞬も。
「うん。でも、氷河は、こんな人たちのことなんか、気にかける必要はないの。そんなことにかまけてないで、僕のことだけ考えてればいいの。――平和な時にはね」

最後のワンフレーズは、ほとんどおまけか言い訳のようだった。

おまけか、言い訳だったのだろう。






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