ある日のことでした。

大きな花と小さな花が咲いている野原に、人間が一人やってきました。

『まあ、こんな草しか生えていない野原に、随分綺麗な花が咲いてるじゃないの』
大きな花に目を留めたその人間は、小さな花を庇うように咲いていた大きな花を手折ってしまったのです。

小さな花は、あまりのことに、我を忘れて叫びました。
「いや! 連れていかないで! 僕の大きな花、連れていかないで!」

広い野原にふたりきり、これまで寄り添って生きてきたのです。
それなのに、この広い野原にたったひとりで取り残されてしまうなんて、小さな花は、身を切られる思いでした。

「連れていかないで! 僕の大きな花! 僕はひとりになったら死んでしまう! ひとりになったら生きていけない! お願い、連れていかないで…!」

泣き叫ぶ小さな花の声は、人間には聞こえません。
けれど、大きな花には聞こえていました。

大きな花は、人間の手から逃れるために、緑色のトゲでその指を刺しました。

人間が小さな声をあげて、大きな花を放り投げます。
人間の手を離れた大きな花は、小さな花の脇に横たわるように落ちてきました。