「ここで、泣いてすがれば、おまえの心を動かせることはわかってる。俺は、おまえに比べれば弱い人間なんだろう。それは多分、事実だ。俺が、おまえに俺の側にいてくれと泣いて頼んだって、それは嘘にはならないだろう。どうしてそうすることができないのか、我ながら不思議だ」 弱さをさらけ出したくない。 強がりが、身に付いた癖になってしまっているのだろう。 登校拒否も“振り”だからできた。 全てを拒否したくても、平生の彼なら、意地でも拒否することを拒否してみせたのだろう。 瞬の『信じる』と大して変わらない、それは何ものかに拒まれた者の反骨なのだ。 「僕、わからなかったの。他の人にだったら平気なのに……。騙されても傷付けられても 気付かない振りをして、幸せを装っていられたのに……。どうして氷河に騙されてたと思っただけであんなに悲しかったのか。どうして――」 どうして、あんなにも痛みを覚えたのか――。 「信じたいのに信じられないなんて、こんなの初めてなの。どうして?」 不安そうに尋ねてくる瞬を、氷河は、むしろ嬉しそうに見詰め返した。 「そんなふうに思うのは初めてなのか」 瞬が、小さくこくりと頷く。 「そうか」 氷河は、瞬の不安を、明確に喜んでいた。 それは、瞬にとって自分が特別な人間だということなのだ。 「それはよかった」 瞬の耳元にそう囁いて、瞬の肩を抱きしめる。 眼差しと言葉以上に不安げな瞬の唇に口付けながら、氷河はそのまま瞬の肩を床に押しつけた。 |