「瞬!」 「……お……王子様っ !? 」 瞬は、部屋に飛び込んできた氷河王子の姿を見ると、一瞬驚きに目をみはりました。 そして、次の瞬間、それはそれは大きな声で泣き出してしまったのです。 「わーん !! 王子様、どーして僕を元の島に戻したりしちゃったのー !! 僕、あれから一人ぽっちで寂しくて寂しくて死にそうだったのにー !! 」 瞬が閉じ込められている部屋は、イオとかいう王子の魂胆も見え見えに、ベッド以外にろくな家具がありませんでした。 ベッドの上にへたりこんでわんわん泣いている瞬の肩を、氷河王子はしっかりと抱きしめてやったのです。 では、瞬はずっと自分を待っていてくれたのだと、氷河王子の感動はまさに底無しです。 この3年間の旅の中で、氷河王子は人の心の移ろいやすいことを、色々な国で幾度も見聞きしてきたのですから。 「ぼ……僕、イオ王子様が、僕の王子様がしたみたいなことしようとするから、でも、僕の王子様は僕の王子様以外の人とあんなことしたらダメって言ったから、嫌ですって言ったの。そしたら、イオ王子様は、僕の気持ちが変わるまでここから出さないって言って、僕をここに閉じ込めて、いつまでも言うことを聞かないと海のお化けに食べさせちゃうぞって、恐いこと言うの……!」 これまで優しい親切な人としか接したことのなかった瞬には、イオ王子の為し様は理解し難い乱暴だったのでしょう。 涙ながらの瞬の訴えは、混乱と恐怖と、氷河王子に再会できた喜びとのせいで支離滅裂。おまけに氷河王子は自分の名を瞬に教えていませんでしたので、王子様が二人も出てくる瞬の話は、何が何やら非常にわかりにくいものでした。 けれど、瞬が氷河王子のいいつけを守って、王子をずっと待っていてくれたことだけは、氷河王子にもわかったのです。 「俺が来たからには、もう大丈夫だ」 氷河王子がそう言うと、瞬はしゃくりあげつつ、こくこく頷きました。 「こんなところは早く出ような」 「はい!」 待ち焦がれていた王子様のお迎えに、瞬はすぐに元気を取り戻しました。 そして、無意味に広い天蓋付きベッドの上から降りようとしたのですが。 それを押しとどめたのは、『こんなところは早く出よう』と瞬に告げた、氷河王子その人でした。 なにしろ、3年ぶりに再会できた可愛い瞬です。 場所は誰も来ない高い塔の上。 エチオピアのスケベ王子の好みなのか、ベッドの上の瞬は、肩や太腿がむき出しになった薄物一枚をまとっただけのあられもない姿。 当人は意識していないのでしょうが、瞬は思い切り氷河王子を誘っていました。 「瞬。そのイオとかいう王子は毎日ここに来るのか?」 「あ、はい。夜、森で梟が鳴く頃になると毎日ここに来て、僕に、僕の王子様しかしちゃいけないことをさせろって言いにくるの。僕が嫌ですって言うと、海のお化けの話をしたり、僕の王子様はただの夢だったんだなんて言って……」 せっかく元気になった瞬でしたが、イオ王子の話を聞くたび味わった辛い思いを思い出したのか、その瞳にはまた涙がにじんできてしまいました。 「ふむ、なら、時間はまだたっぷりあるな」 氷河王子は、瞬の瞳から零れ落ちた涙を唇で吸うと、この危機的状況がわかっているのかいないのか、北の国の塔で初めて瞬と出会った夜と同じように――まあ、要するに、ベッドに押し倒してしまったのです。 「まだ、名前も教えていなかったんだな。俺の名は氷河だ。呼んでみろ」 「ひょう……氷河……?」 その年の春に最初に咲くスミレのように初々しく、いっそ食べてしまいたいほど甘い風情をした可愛らしい恋人に、ためらいがちに初めて名前を呼ばれる時、人はどういう感慨を抱くものでしょうか。 氷河王子は、背筋がぞくぞくするほどの快感と興奮を覚えたのです。 そして、もちろん、氷河王子はその甘美な刺激に抵抗しようなどとは毛ほどにも考えませんでした。 そうして。 初めての時と同様に、一が二に、二が三に、三が四に、四が五に。 なにしろ、愛しの瞬に会えたのが3年ぶりなら、抱きしめるのも3年ぶりです。 その間、氷河王子はずーっとこの日を夢見て、我慢に我慢を重ねていたのですから、一が無限に増えていったとしても、それは仕方のないことだったでしょう。 |