「そんな顔しないで。私は、自分を不幸だと思っているわけではないの。むしろ、とても幸運だと思っているわ」 瞬を困らせてしまったことに気付いて、沙織は笑顔を作りかけ、そして、やめた。 沙織は、逆に表情を引き締めた。 「――不幸の形は人それぞれだけど、幸せな人たちの姿は皆似かよっていると言うでしょう。でも、私はそうは思わないの。そんなことを言う人は、幸せのイメージが貧困な不幸な人たちだと思うわ。幸せの形はね、本当にたくさんあるのよ」 それでも、自分を幸福だと思うには、人は強さを必要とする。 沙織は、女神らしいしなやかな強さを、その身に備えていた。 この人の望みを叶えるためになら、ピアノよりも――平穏よりも――闘いを選んでもいいと思ってしまえるような強さと暖かさを。 そう思えるからこそ、瞬と瞬の仲間たちは、これまで闘いの日々を送ってきた――送ってこれたのだ。 |