「ねえ、氷河。あの歌の――『ドレミの歌』の2番の日本語の歌詞、知ってる?」

華麗なる大演奏会を終えると、星矢は『早く来いよ、早く』と言い残し、自分はまたせっかちにまた部屋を飛び出して行ってしまった。
瞬と氷河は、少々疲労の残る足取りで、その星矢の後をゆっくりと追いかけることになったのである。

「うん?」

氷河は、それを知らなかった。
それどころか、知っていたはずの1番の歌詞さえ、星矢の弾き語りのせいで、氷河は思い出せなくなってしまっていた。

“それ”を、瞬が口ずさみ始める。

「どんな時にも、列を組んで、みんな楽しく、ファイトを持って」

「そんな語呂合わせ、よく考えつくな」
「うん、ほんとだね。空を仰いで、ららららららら」

今にも踊りだしそうな瞬を見て、氷河は苦笑した。

「しあわせのうた、さあ、歌いましょう」


つい先ほどまで、ひどく辛そうに瞳を傷付けていた瞬を――しかも、瞬は、星矢の弾き語りにかなりのダメージ(?)を受けていたはずなのに――こんなにもすぐに立ち直らせることができるというのなら、歌の力というものは、確かになかなか侮れないものではある。
氷河は、今ばかりは、歌の持つ力に感謝していた。



「氷河、僕がピアノ弾けるようになったら、聞いてくれる? すごく、下手っぴでも」
「俺のために弾いてくれるのか?」

自分のためではなく。
自分以外の全ての人のためでもなく。

「その代わり、下手っぴだよ」

誰かのために。

「……『メリーさんの羊』でも、『ドレミの歌』でも、喜んで拝聴するさ」

それは、素敵なこと。
幸せなことなのだ。

「うん」

氷河の苦笑に、瞬は幸せそうに微笑みを返した。

「ありがとう、氷河」






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