その翌日のことだった。
実験施設の中から、一輝の姿が忽然と消えたのは。

さほど複雑な造りになっているわけではない施設の中をくまなく捜したのだが、結局、瞬たちは一輝の姿を見付け出すことはできなかった。

「研究所の人が外に引き上げさせたんじゃないかな」
「それならそうと連絡が入ってもよさそうなもんだ。この実験の目的は、俺たちの不安を煽ることじゃないはずなんだからな」

紫龍の言い分には一理があった。
“外”にいるのが、グラード環境科学研究所の所員だけなら。
常識では推し量れないアテナ・城戸沙織の存在を考慮に入れなければ。

「星矢がいなくなるならわかるぞ。星矢は調子が悪かったからな。しかし、消えたのは一輝だ。――氷河、貴様、この機に乗じて一輝を闇に葬ってしまったんじゃないだろうな」
「夕べの俺が何かするなら、星矢の方だな」
「そう思わせておいて、積年の恨みを晴らそうとしたとか」
「俺は一輝に恨みなどないぞ。一輝はあるかもしれんが」
「……確かに」

冗談にしても穏やかならぬ紫龍と氷河のやりとりに、瞬は顔をしかめた。

「……そんなふうには見えなかったけど、兄さんの方が星矢より、ここでの生活がこたえてたのかもしれないよ。所員の人がそれで……」
「なら連絡があっていいはずだろう」
「それはそうだけど……でも……」

施設内部から外への連絡をつけることはできないだけに、これはどうにも確認のしようがなかった。






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