氷河は呆然としたのである。

「瞬、どこだ」

二人なら生きていける。
それはとりも直さず、一人では生きていけないということだった。


氷河はベッドから飛び起きると、必死で辺りを捜し始めた。
室内はおろか、共有区域から植物園、星矢たちが使っていた個室まで、ありとあらゆる場所を気が狂ったように捜しまわった。

しかし、目指す人の姿も声も、その人が夕べまで自分の側にいた形跡さえ、氷河は見付けることができなかったのであるる

瞬が瞬自身の意思で、自分から離れていったとは思えない。
何かが、瞬の身に起きたのである。
それ以外に考えようがなかった。

瞬と二人でいる時には思い浮かびもしなかった悪い考えが、次から次へと氷河に襲いかかってくる。

「瞬……」

人が一人きりで在ることの不安。
外で何が起きているのか。
瞬はどうしたのか。
世界が本当に壊れてしまったのか。

もしかしたら、瞬という存在さえ、自分の孤独が作り出した幻だったのではないかという恐怖さえ、氷河の中には生まれ始めていた。

人は一人では生きていけないのである。
孤独は友になりえない。
孤独から逃れるためになら、人は悪魔とですら親しい友人になれるだろう。

しかし、今、氷河の横には、悪魔も、そして彼の天使もいなかった。


「瞬―っっ !! 」


不安と、不安の作り出す悪夢と、激しい頭痛と、息ができないほどの苦しさから逃れるために、氷河は、誰もいない長い廊下の端で、瞬の名を叫んだ。



途端に、空が崩れ落ちてきた。






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