「ふん。結局、こんな落ちか」
「俺たちはただの脇役というわけだ」
「何にしても、こんな実験モデルはもう懲り懲りだぜ」

巨額の投資をしたのであろう実験施設(の残骸)の前でぼやく脇役たちに、しかし、沙織は全く懲りていない様相を示した。
「あら、あなたたち、何を言っているの? あなたたちには、また協力してもらうつもりよ。今度はね、人間の孤独の耐性じゃなく、閉じられた空間にリリィちゃんが紛れ込んだ時の増え方についての実験を考えているのよ。どうかしら?」

「嫌ですっっ !! 」
沙織の提案に最も素早い反応を見せたのは、たった今まで氷河と感動的なラブシーンを演じていたはずの瞬だった。

「でも、働かざる者食うべからずよ」
「働かないと言ってるわけじゃありません。もっとマシな仕事をくださいと言ってるんです!」

「じゃあ、最初の最初に戻って、モデルを――」
「だから、もう実験モデルは懲り懲りだと言ったでしょう。これなら、ファッションモデルでもやって、人目にさらされていた方がまだマシだ」

紫龍の発言(失言とも言う)に、沙織の瞳が突如キラーン☆ と怪しく光る。

「まあ、それならそうと最初に言ってくれればよかったのに! 今度、グラードの衣料部門で、市場が飽和状態のレディースを見限って、メンズのプレタポルテを出すことになってるの。その専属モデルなんてどう?」

「…………」× 5

沙織の口から光速で飛び出てきた、モデルの仕事の代替案。
これは、どう考えても、沙織の立ち直りが早いのではない。

「じゃ、早速、新分野進出宣伝のためのパンフレットと来年のカレンダーの撮影を始めましょうか。このグラード環境科学研究所の裏に撮影スタジオがあるのよ。デザイナーもコーディネイターもカメラマンも、あなたたちが来るのを今か今かと待ち構えているわ」

「…………」× 5

最初から、そういう計画だったのだ。
アテナの聖闘士たちには、そうとしか思えなかった。

寛大な女神は決して、彼女の聖闘士たちに無理強いはしない。
必ず、二つの道を提示して、そのいずれかを選択させる。

そして、アテナの聖闘士たちは、その二つの道のいずれかを選ぶことしか許されていないのだった。






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