なぜ、兄上がお怒りにならないのか、わかりません。 以前の兄上なら、『よりにもよって、自分の家を滅ぼした仇敵を愛するとは何事か』と、僕をお責めになっていたはずです。 僕は、先日の手紙で、自分の心を兄上に伝えることを迷いました。 あの手紙をつけたアルベリーコを窓から空に放とうとして、何度もためらいました。 兄上、今の兄上のお暮らしはどのようなものなのでしょう。 敵に心を奪われた弟を叱咤する気力も湧いてこないほど、窮乏していらっしゃるのでしょうか。 僕にできることはございませんか。 フォルトナートは、おそらく、僕の願いならどんなことでも聞き届けてくれると思います。 立場上、兄上をこの屋敷に迎え入れることはできなくとも、どこかに匿うくらいのことは、きっとしてくれます。 お願いです。 兄上が今、どのような状況に置かれているのか、真実をお知らせください。 心配でたまりません。 フォルトナートに、兄上を救ってくれと泣いてすがってしまいそうです。 必ずお知らせください。 1262.8.12 あなたの弟 アンジェロ
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