フォルトナート。

2日前、手紙を託したアルベリーコを、僕はあなたに与えられた部屋の窓からでなく、こ の屋敷の庭から空に放ちました。
アルベリーコは、大きく僕の上で二度三度旋回し、それから、この屋敷の東の塔の窓に飛び込んでいきました。

人影がありました。
金色の髪をしていました。


兄は死んでいたのですね。
驚くほどに優しく変容してしまった兄は、あなたが、僕のために、すべてを失って生きる気力すら残っていなかった僕を生かすために綴ってくれた偽りの兄だったのですね。


僕はそうとも知らずに、兄が生きているのだと思い込み、あまつさえ、あなたに打ち明けられない思いをあなた当人に嘆いていたのですね。


兄は、やはり、残虐な領主のまま、前非を悔いるどころか、もしかしたら、あなたを恨みつつ天に召された……いいえ、おそらくは地獄へと堕ちていった……。

兄が唯一信じていたアルベリーコさえ、畜生でさえ、兄を見捨て、あなたに馴れてしまった。


兄はすべてを失い、すべてに裏切られて死んでいったのに、僕だけがのうのうと生きていくことができるでしょうか。
幸せになることなどできるでしょうか。


あなたが僕を騙したのだとは思っていません。
あなたは、僕のことを思ってこんなことをなさってくださったのでしょうから。
できるなら、僕はすべてを忘れて、あなたの腕にこの身と心を投げ出したい。
けれど、僕は僕だけが幸せになることなどできません。


もう、手紙はいりません。


1262.9.3   アンジェロ・ダ・ロマーノ






【dopo】