恐れおののいている島民を尻目に、氷河と瞬は闘いを続けた。 2、3時間も本気で闘っていると、さすがの瞬も肩で息をし始めることになる。 「僕、聖闘士最強って言われてきたけど、それって過大評価だったみたい。氷河、存外やるね」 「負けるわけにはいかない」 「いっそ、二人で死のうとか考えない?」 「考えない。俺はおまえを死なせない」 瞬の作り出す嵐が、氷河の生み出す氷を周囲に撒き散らす。 「生きることにそんなに価値があると思っていたの、氷河」 「ああ。生きていることは素晴らしいな。俺はそれをおまえに教えてもらった。だから、おまえには生きていてほしい」 「同じだけ、死にも価値があるかもしれないじゃない」 「あいにく、俺は死んだことがないから、死の価値はわからん。俺が知っているのは、生の素晴らしさだけだ」 「うん。僕も同じ理由で、氷河に生きていてほしいよ」 決して手を抜いているわけではない。 どちらも本気だった。 本気で、闘いと――闘いの中で交わされる会話を、二人は楽しんでいた。 驚きのあまり、その場から逃げ出すこともできずにいる島民と氷河と瞬の上に、やがて、夜の帳がおりてくる。 半日が過ぎても、氷河と瞬の本気の闘いに決着はつかなかった。 「闘ってる間だけ生きていられるなんて」 「人生のようだな」 「そうだね」 二人は楽しんでいたのである。 氷河と瞬の圧倒的な力に驚愕している島民たちに、その力をもって神に命を捧げることの愚を説くのも可能なことのような気になっていたせいもあった。 「何だって、どんなことだって、戦いだ」 相手は敵という名を冠する同胞であったり、自分であったり、あるいは愛する者であったりする。 敵でない者との戦いは、むしろ買ってでもしたいと思うほどに心地良いものだった。 「あれも似てるな、闘いに。楽しいはずだ」 「ばか」 からかうような口調の氷河に、渾身の小宇宙で作った嵐をプレゼントする。 有難いプレゼントの力を弱めるために、凍気を放ちながら、氷河は瞬に告げた。 「瞬、月食だ」 「ああ、ほんと」 見上げると、南半球の白い満月が、空の高いところで欠け始めていた。 「南半球の月食だ……」 目的のものを見ることができて、瞬は満足だった。 |