ロシアのお友達の苦衷を知った瞬ちゃんは、雄々しく立ち上がりました。


翌日の1時間目、国語の時間。

「ア…アルビオレ先生、ぼ…ぼ…僕、頭が痛いんです…っ!」

嘘をつき慣れていないせいで、瞬ちゃんの声はどもり、顔は真っ赤です。
けれど、そのせいで瞬ちゃんはますます具合いが悪そうに見えました。
アルビオレ先生は疑いもせずに、瞬ちゃんに保健室に行くように言い、瞬ちゃんは、胸の中で『ごめんなさい』を繰り返しながら、保健室ではなくロシアのお友達の教室に向かって駆け出したのでした。


「氷河― !! 」

突然3年生の教室に飛び込んできた2年生に、カミュ先生はびっくりです。
「き…君は瞬くん……とか言ったな」

「ぼ……僕、心臓が痛いんです! 氷河と一緒にいないと苦しくて死んじゃいそうなんです!」
自己紹介もせずに、瞬ちゃんはカミュ先生に涙の直訴。
正攻法で来られてしまったカミュ先生は、咄嗟に言葉も出てきません。

「瞬……」
ちょうど教室を抜け出そうとして、教室の後ろを匍匐前進していたロシアのお友達が、瞬ちゃんの声に驚いて、その場に立ち上がりました。

正直者の瞬ちゃんより、ずるっこしぃのロシアのお友達の相手の方が、カミュ先生は得意でした。
ロシアのお友達に向ける怒声なら、光速より速く口を突いて出てきます。
「氷河、貴様、性懲りもなくまた抜け出そうとしていたなーっ !! 」

カミュ先生はマイチョークを氷河に投げつけましたが、ロシアのお友達は時速150キロのチョークよりも速く、瞬ちゃんの側に駆け寄っていました。
「瞬、大丈夫なのか? 心臓が痛いのか?」
そんなことを言って、ロシアのお友達は、カミュ先生やクラスのお友達の前で、瞬ちゃんの胸を撫で撫で撫で撫で。

カミュ先生は、二人の仲の進展具合に、教師として深い懸念を覚えました。

そのカミュ先生に、
「ぼ…僕、昨日、僕のお兄さんが小学校の時使ってた教科書を読んで、3年生のお勉強をしてきました。むらさきしきぶも読めます。じゅんれつとくみあわせも計算できます。『僕は氷河がだいすきです』は、『ひょうが、 あい らぶ ゆー そー まっち』です。だから、僕に、氷河と一緒に3年生の授業を受けさせてください!」
瞬ちゃんは、必死の懇願です。

「き…君は天才か!?」

結局のところ。
瞳に涙をいっぱいためて訴える瞬ちゃんを、カミュ先生は2年生の教室に追い返すことができませんでした。

厳しくてクールなカミュ先生は、結局クールになりきれていない男だったのです。






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