ロシアのお友達の健康を気遣っている瞬ちゃんは、今日も白衣の天使のごとく(でも、もちろん白衣は着ていません)(何にも着ていません)(お風呂だから)優しい口調で言いました。
「氷河、背中、流してあげるね」

けれど、ロシアのお友達は、ぶるぶると首を横に振りながら、瞬ちゃんの親切を拒みます。

「どうして?」
瞬ちゃんが手をのばして、ロシアのお友達の腕に触れた途端、ロシアのお友達は真っ赤になって、浴槽にじゃぶんと飛び込んでしまいました。

「氷河……」
瞬ちゃんは、ロシアのお友達のその行動にとてもショックを受けました。
それはそうです。
これまでずっと仲良く、背中の流しっこどころか、おなかの洗いっこだってしてきたふたり。
なのに、突然のこの拒絶。
瞬ちゃんが衝撃を受けるのは当然のことだったでしょう。

「氷河、僕に触られたくないの……」
悲しそうな顔で瞬ちゃんが尋ねると、ロシアのお友達は浴槽の中でぶるぶる首を横に振りました。

「じゃあどうして…?」
「…………」
悲しそうな目をしてそんなことを尋ねてくる瞬ちゃんに、ロシアのお友達は、とても本当のことを教えられません。

「氷河……」
ロシアのお友達の無言の答えに、瞬ちゃんは泣きそうです。

ロシアのお友達が1年生に落第した時も、瞬ちゃんは一生懸命ロシアのお友達に『氷河』の字を教えてあげました。
ふたりで頑張った甲斐あって、瞬ちゃんが3年生にあがる時には、ロシアのお友達も一緒に進級できました。







豆乳デザートやミルメークをプレゼントしてくれて、クジラの竜田揚げを食べてくれる優しいロシアのお友達を、瞬ちゃんは大好きでした。
瞬ちゃんは、ロシアのお友達と自分はいちばんの親友だと信じていたのです。

それなのに……!


「氷河のばかっ!」
何も答えてくれないロシアのお友達を怒鳴りつけて、瞬ちゃんはお風呂場を出ていこうとしました。

「瞬……!」
瞬ちゃんを引き止めようとして湯船の中で立ち上がったロシアのお友達は、自分の身体の状態に気付いて、慌ててもう一度お湯の中にじゃぶん★

「氷河……」
瞬ちゃんの瞳は絶望の色を帯びてきていました。
瞬ちゃんは、ロシアのお友達が自分を引き止めてくれるものとばかり思っていたのです。

「氷河、ほんとに僕が嫌いになっちゃったの……」
悲しみがほとばしるような声音の瞬ちゃんに、ロシアのお友達が与えられる答えは、ひたすら首を横に振り続けることだけ。

「だったらどうしてっ !? 」

瞬ちゃんは、その訳を知りたがります。
ロシアのお友達は、けれど、答えることができません。

真実を告げるには、あまりに幼すぎる瞬ちゃん。
けれど、瞬ちゃんに責められるロシアのお友達にも、そろそろ限界が近づいてきていました。
ロシアのお友達は、もうこれ以上我慢できなかったのです。


我慢できずに――すっかりのぼせきったロシアのお友達はぶるぶるしながら、浴槽の中にぶくぶくと沈んでいってしまったのでした。



「氷河っ !? 」

慌てて、お湯の中からロシアのお友達を引き上げた瞬ちゃんは、そうして、ロシアのお友達がこんなになるまで湯船から出ようとしなかった訳を、ついに知ってしまったのでした。






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